2007年度は、当該科研費(萌芽研究)の研究目的に関わる以下の三つの研究実績があった。 1.【論文】川越修他編『思想史と社会史の弁証法』御茶の水書房(全465頁)に、「西洋近代思想史の批判的再検討-カント最晩年の政治思想におけるロック批判の脈絡-」(2007年11月pp.5-30)を発表した。ここでは、ロック以降、西洋国際法に「無主の地」の理論が導入され、それによって非西洋諸大陸の大部分が「無主の地」と見なされ、西洋諸国家による植民の対象とされた。カント最晩年の『法論の形而上学的基礎付け』は、これに抗して先住民の先住権を擁護するための理論的基礎付けとしての意義を持っていたことを解明した。 2.【研究発表】8月28日、北京(中国)の清華大学人文科学院において、「西洋における市民社会概念の二つの起源」というタイトルで研究報告を行った。その中で、西洋の市民社会概念史の中でカントの「世界市民社会」概念の持つ重要な意義について強調した。また、9月1日批判理論研究会においてはハーバーマスが「カント『永遠批判論』-200年の歴史の隔たりから」において、カント最晩年の政治思想における西洋諸国家による植民活動およびそれを正当化する同時代の国際法に対する批判の脈絡を無視している点を批判した。 3.【文献収集】2008年3月ベルリン・フンボルト大学を訪問して、同大学図書館および国家図書館を中心にして1790年代に刊行されたカントの法論に関する同時代知識人の著作を収集した。
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