研究対象であるゴードン・マッタ=クラークについては、本件申請後、海外における研究が進展し、ポリグラファ社(マドリッド、2006年)より著述・インタビューを豊富に掲載したモノグラフが刊行されたほか、ホイットニー美術館(ニューヨーク)が回顧展を組織し、アメリカ国内を巡回した(2007-8年)。したがって本研究では、こうした新たな研究の展開を視野に入れながら資料を再構築することが、最初の課題となった。また、遺族のエステイトが保管していた一次資料は、カナダ建築センターに順次移管していたところであるが、アーカイヴとして整理と公開がなされつつある。このため、回顧展における作品調査と、カナダ建築センターのゴードン・マッタ=クラーク・アーカイヴの調査を行い、特に初期の活動について、作品や未公刊資料を閲覧、記録した。 本研究の関心は、マッタ=クラークの代表作とされる建築をカットするプロジェクト以前、ニューヨークのダウンタウンにおいて展開された活動にあるが、なかでもアーカイヴ調査により、ソーホーでのマッタ=クラークの活動拠点として新たな空間を創出したレストラン「FOOD」に関して、新たな知見が得られた。マッタ=クラークの初期作品が菌の培養や熱すること、混ぜること等、料理に対する人類学的視点にたっていることは指摘されている。FOODの設立とほぼ同時期に行われた南米旅行の写真は、動物、市場の豆や肉、屋台/食堂といった小さなサイクルの中での直接的な連鎖に焦点化していた。ソーホーのレストランはアーティストのコミュニティの創出でもあったが、食や食物のうちに忘れられた自然と人間の関係を思考するという動機をも、そこに見いだすことができるだろう。
|