本年度は、美学、美術史、芸術学、哲学、社会学などを専攻している若い研究者たちが発表し意見を交換し合う機会を二回にわたって持った。具体的には、「イメージ論の臨界」という題目で、関東と関西の大学院の博士課程で学ぶ学生たちに、それぞれの関心から発表してもらい、参加者たちと討論するという形式をとった。そうすることで、美術史をいったん相対化し、隣接する諸学問との関係性、境界を再考するというのが目的である。一回目は「イメージ(論)の氾濫を前にいかに思考するか」、二回目は「ミュトスとロゴス」というザブタイトルで、それぞれ八名と六名の若い研究者が報告を行った。話題は、ブランショやバタイユらのイメージをめぐる思考から、具体的な美術作品の新しい分析の可能性まで、多岐にわたるものであった。美術史が作品や作家に縛られる傾向が強いのにたいして、これを解き放つ上で、まず広い意味での「イメージ論」の再構築が必要不可欠に思われた、というのが、この発表会を開いた最大の理由である。イメージと力、イメージと言語、イメージと音、イメージと倫理、イメージと時間、イメージと記憶、イメージと身体といった、さまざまな観点や問題点がこの発表会を通じて浮上してきた。美術史がさらなる可能性を開くためには、こうした問題を理論的かつ歴史的に、総論的かつ各論的に考察する必要があるだろう。美術史は、イメージ論として、より広い視野から方法論的な検討を迫られているのではないか、若い研究者たちとの意見の交換を通じて、そのことを痛感した。今後も、こうした隣接諸学で学んでいる若い研究者たちの発表や意見交換を通じて、美術史の新たな可能性を探る機会を持つ予定である。
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