今年度も前年度に引き続き、8月30日(土)と3月7日(土)の二度にわたって、東西の博士後期過程の学生を中心とした若手研究者による研究発表会を開催した。テーマは既存の学問の枠を超えて、「イメージ」をめぐる歴史的、現代的、美学・哲学的な問題を考察しようとするものである。とりわけ今年度は、「イメージ」の政治性、翻訳および伝達可能性・不可能性について、日本、フランス、イタリアの具体的な芸術作品やメディアの分析を踏まえて、活発な討論が繰り広げられた。言語に比べると「イメージ」は、曖昧で多義的な性格を持つ。つまり、物言わぬ「イメージ」は、言葉に及ばない存在であるが、それだけに、言葉を超えた存在でもある。言葉以下にして言葉以上、そのパラドクスに「イメージ」の本質があるといえる。これは、しかしながら、「イメージ」のもつ可能性であると同時に、危険性でもある。つまり、「イメージ」は常に過剰性へ、極端なものへ、刺激性へと向かう傾向がある。「イメージ」の政治性、翻訳および伝達可能性について考察するうえで、このイメージの逆説的な二面性は重要な鍵となる。現在、イスラーム教とユダヤ=キリスト教という、一神教同士のあいだで繰り広げられている衝突も、偶像破壊的行為に象徴されるように、「イメージ」をめぐる抗争という性格を帯びている。こうした問題は、従来の美術史の狭い枠組みでは考察できないものである。こうした点を踏まえて、さらに最終年度となる来年度の研究につなげたい。
|