本年度は、第一に、昨年度に引き続き、文献資料調査を行い、ディデリなど当時の有名写真スタジオの名刺判写真、およびその文献資料を、また同時に、現在のヴァナキュラー写真のメディア論的次元を考察するための資料を入手し、いくつかの成果を発表した。 その成果はまず「デジタルが指し示すもの」(研究成果欄参照)である。ここでは、メディア論的枠組みとヴァナキュラー写真の関係を詳細に議論した。つまり、写真論のなかで、デジタル写真は技術一辺倒の議論をされる傾向が強く、これとは違う仕方で、つまり日常での流通や受容の文脈からこれを孝察する理論的価値を論じた。 第二に、写真論自体の枠組みの、現在における行き詰まりを「写真の語りにくさ」において論じた。ここでは1980年代以降の写真論が設定し、現在に至るまで硬直化させてしまった二項対立を明らかしている。 第三に、ヴァナキュラー写真論の指針をさらに明瞭にするため、写真の起源における曖昧で流動的な認識論的枠組みを現在において再考する意義を検討した(「写真の系譜学」)。 また、こうした観点から現在の写真論の言説を再検討する具体的な例としてベンヤミンの写真論を、従来とは別の角度で読む可能性について考察した。 以上、ヴァナキュラー写真論の基礎となる資料調査、その現在での議論の幅の可能性、そして写真の起源における有効性、この三つを明らかにしたのが本年度の研究概要である。
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