本研究は、フランスの首都パリの第五区に位置する、パンテオンを研究対象とする。そもそもは教会として建立されたこの巨大建造物は、フランス革命期に世俗化されて、「共和国の偉人」を祀るための寺院となった。その後、フランスの政治体制の変転とともに、このモニュメントの地位も変遷を経るのだが、第三共和制の政府がヴィクトル・ユゴーをここに埋葬することによって、パンテオンとしての地位を確立する。 研究第一年度目である本年度は、資料収集と分析、および現地での調査を積極的に行った。 5月の仏語仏文学会春季大会(明治大学)のさい開催されたカミュ研究会例会に於いて、「カミュの近代史観について」という題目で研究発表を行った。この発表は、近代の世俗化(脱キリスト教化)の過程を描くカミュの近代史観に注目するものであり、世俗化を象徴するモニュメントであるパンテオンの研究と密接に関係している。なおこの発表の内容にもとづく論文を、雑誌「SEPTENTRIONAL」(日本フランス語フランス文学会北海道支部論集)第1号に掲載した。 9月にはパリに赴き、パンテオンの調査を行った。建物の地下に収納されている偉人たちの棺、キリスト教の名残を残す装飾美術などを実際に調査した。2007年1月にパンテオン入りのセレモニーが行われた、「フランスの正義の人々」に関する情報を得られたことも収穫であった。ドイツ占領時代にユダヤ人を助けた人々に関するセレモニーは、そもそもは「偉人顕彰」の場所であったこのモニュメントの地位に変化を加えるものであると考えられる。
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