本研究は、フランスの首都パリの第五区に位置する、パンテオンを研究対象とする。そもそもは教会として建立されたこの巨大建造物は、フランス革命期に世俗化されて、「共和国の偉人」を祀るための寺院となった。その後、フランスの政治体制の変転とともに、このモニュメントの地位も変遷を経るのだが、その変遷を当時の社会と文学との関連で考察するのが本研究の目的である。 研究第二年度目である本年度は、前年度に引き続き資料収集を行った。またシンポジウムの開催を検討したが、参加者の日程調整が困難であったため、専門家を北海道大学に招いて講演会を開催した。 田村毅氏による講演「フランス・ロマン派の夢と神話-シュナヴァールのパンテオン壁画構想-」(7月17日)は、実現することのなかった壁画(「ロマン派の夢」)を紹介するものであったが、パンテオンの地位が確定しない第二共和制の時期の思潮を知るうえで興味深いものであった。 塩川徹也氏による講演「パスカルとその対話者たち-ヴォルテール、シャトーブリアン、ジッド、ヴァレリー-」(10月30日)は、近代の入り口で世俗化(脱宗教化)の問題を深く考察したパスカルを、18世紀以降の作家たちがどのように受容してきたかを扱うものであった。パンテオンに「偉人」として最初に埋葬されることになるヴォルテールのパスカルに対する反応を詳しく解説していただいたが、それは、キリスト教の「聖人」ではなく、世俗の「偉人」崇拝のモニュメントであるパンテオンを研究するうえでとく意義のあることであった。
|