本科研2年目そして最終年度にあたる本年は、それまでの研究成果を公表していくことが目標であり、一応その目標達成することはできたと判断する。女性が十八世紀末において福音主義を受容していく過程で、宗教的な要素ばかりではなく、感受性文化の中で受容し、さらに慈善活動や消費活動といった社会行動へと応用し、さらには日記や詩、小説といった文学においても宗教的感性を発露させていったことは重要な意義を持つことを確認した。文学において宗教的要素は軽視される傾向が強いが、とくに十八世紀後半からのイギリスにおいて福音主義の及ぼした影響は広範囲かつ甚大であり、それが行動様式のみならず言説上にもはっきりとした痕跡を残しているのは当然といえば当然なのだが、クエーカーの女性はもちろんのこと、ユニタリアン派の女性の言説においても露骨に政治的な意味をもってその痕跡が残っているのは学術上新しい発見であったと言ってよい。また、ハナ・モアのような国教会福音主義者たちの言説には、福音主義が単に慈善や政治イデオロギーと結びついているのではなく、女性たちを「公共圏」へと参画させる推進力を保持していることが証明できた。 一年のほとんどを国内における資料調査を行いながら、学会発表は論文執筆に費やした。ノリッジの女性たちの文学作品と福音主義の影響、およびフランシス・バーニーの小説における慈善と福音主義の関係については、12月末から調査・研究をはじめ、2月に3週間にわたる海外資料調査を行って国内にない資料調査を行った。それらについての論考は現在投稿中であり、来年度に公表される予定である。
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