本年度は、ジェイムス・ジョイスとイタリアのユダヤ系作家イタロ・ズヴェーヴォの関係および、その二人の関係が、『ユリシーズ』の主人公ブルームに反映していることを、二人の生まれ育った宗教とそこからの離脱(ズヴェーヴォの場合はユダヤ教からカトリックへの改宗)という共通点に焦点をあてて考察した。また、リチャード・エルマン以降の伝記的叙述がエルマンに批判的になっており、その事情を斜酌して考察する必要を強く感じた。 また、James Joyce Summer SchoolおよびIasil Conferenceに出席し、各国の研究者と意見を交換した。前者においては、ジョイス研究との関連領域で、アイルランドにおけるユダヤ人移民の研究についての知見を得た。また後者においては、Yeatsのポルトガル詩人のペソアへの影響や、アイルランドのモダニストThomas MacGreevyについても考察を進めるべきであることに気づかされた。 ジョイスやエリオットをプロモートしたエズラ・パウンドについてシエナで活動していた時期があることが判明した。彼が従事していたのは文学だけでなく、音楽会をオーガナイズし、オペラを創作していたことが明らかになった。
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