本年度はガリツィアの首都レンベルク(現ウクライナのリヴィウ)の地勢的・歴史的研究のための現地調査、資料収集を行った。レンベルクの地勢的特徴は、ヨーロッパの都市の中でも希有であるが、川のない都市と言われている。しかし、創建当初から川がなかったわけではなく、近代的な都市整備の過程でポルトヴァという名の川が埋設されたのであった。今年度は、このポルトヴァ川埋設前後のレンベルクの変貌を、さまざまな資料から跡づける作業を行った。 同時に、本年度の現地調査では、第2次世界大戦前後の、レンベルクのユダヤ人の事跡も追い、かつてのユダヤ人地区、そしてヤノフスカ強制収容所跡地を訪れた。強制収容所跡というと、たとえばドイツのブーヘンヴァルト、ダッハウやポーランドのアウシュヴィッツなど、当時の状態を可能な限り忠実にとどめた場所というイメージがあるが、レンベルクのヤノフスカ収容所跡には、当時の痕跡は一切残されていない。広い敷地は建設現場と資材置き場となっていた。それは、ある意味で、当時の状態を可能な限り忠実に再現している強制収容所跡地以上に衝撃的なものであった。おそらくそこにはウクライナ人とユダヤ人との歴史的な関係が深く関わっていることが推測されるが、その解明は今後を期したい。
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