本研究初年度(19年度)の目標はケイの死後四折二巻本として出版された「銅版画作品集(1837-38年)」中の銅版画ポートレイトおよびそれぞれに付随しているパターソンによる人物解説テキストを精査することであった。 具体的な作業のひとつは、ケイが銅版画ポートレイトを遺している18世紀スコットランドを代表する実業家のひとりウィリアム・フォーブスに関する調査をフォーカーク市資料館で行った。ケイのフォーブス像は彼の多くの作品中でも殊に風刺に富んだもののひとつと考えられるが、その風刺が18世紀後半のスコットランド特に古都エディンバラのどのような社会情勢あるいは歴史的経緯を背景にしたものかを考察した。社会の様々な方面で近代化を推し進めたいわゆるスコットランド啓蒙の時代にあって、ケイの銅版画ポートレイトの風刺精神は近代化から取り遺されたエディンバラ市オールドタウンの一隅から生まれたものであった。 このような考察結果は別に収集したケイの代表的作品29点を公開展示する 「ジョン・ケイ銅版画展-古都エディンバラオールドタウンの崎人たち」展 (平成20年3月17日〜4月30日、京都ノートルダム女子大学図書館) http://nais.notredame.ac.jp/lib/john kay.html参照 の展示コンセプトに反映している。本展はケイに関するおそらく我が国におけるはじめての展覧会ではないかと思われる。一部の新聞報道もあって、展覧会には学外からの来場者もある。また本展覧会用に準備した図録も本研究初年度の成果のひとつである。展覧会期間中の平成20年4月19日(土)にはギャラリートーク形式の公開講演会を開催し、ジョン・ケイについての講演と展示解説を行った。
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