2008年11月27日、韓国釜山の韓国海洋大学校における国際学会『東アジア海港都市の共生論理と文化交流』に参加し、「『朝鮮日々記』における「丁酉再乱」体験の表象について」というタイトルで報告した。当報告では、豊後臼杵安養寺の寺僧・慶念の日録という体裁をとるテクスト『朝鮮日々記』を対象に、同テクストにおける語り手の世界観の諸特徴を分析し、当日記が武将の視点に立つ多くの戦記群とは異なり、日本軍の残虐行為に対する批判的な視点や良心の痛みも表白されている半面、それらがもっぱらこの世を地獄と見なして信仰による極楽往生へと転回する論理に回収され、現実に対峙している朝鮮の人々に対する切実な関心に向かわない傾向があること、等も合わせ指摘した。 その後、韓国海洋大学校における海洋文化研究関連の出版物への寄稿を要請され、現在その論文を執筆中である(2009年5月上旬脱稿の予定)。当該論文においては、1590年代日本の言説空間における朝鮮認識、本願寺教団における朝鮮認識を踏まえて、『朝鮮日々記』における朝鮮表象の在り方をより広い文脈の中に位置づけることを目指している。また、17世記初頭に成立した朝鮮の『於于野譚』における、朝鮮人およびその離散家族たちに関する説話を分析し、朝鮮と日本の各言説空間における眼差しのすれ違いの諸相とその構造的原因について解明するための方法を模索している。 他方、2008年度は『壬辰倭乱史料叢書』等、韓国における壬辰倭乱・丁酉再乱関連の資料の収集が大きくはかどった。現在、その解読作業を進めている。
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