本研究はコイサン諸語コエ語族グイ語を対象に、未記述で無文字の危機言語の辞書編纂・語彙意味研究にとって斬新な接近法である「モノリンガル意味記述」を導入することによってつぎの3つを目指している。 (1)危機言語の言語学的記録のための新しい方法論を具体的事例をもって提示すること。 (2)コイサン言語研究における語彙意味論に新しい展開の糸口を与えること。 (3)モノリンガル意味記述が危機言語コミュニティーでの識字教育・言語維持という言語学応用分野にどのように利点をもたらすかを模索すること。 最終年度にあたる今年度は、(1)(2)(3)に関して本研究がこれまでに達成した成果を、コイサン語の先端的研究をしている国外の2人の言語学者に示し、討議をすることができた。5月に来日したベルリン大学教授トムグルデマンとボツワナ大学教授アンディチェバネと面談し、グイ語のモノリンガル意味記述のテキストの分析結果と、それをもちいた識字教育応用の素材に関する議論を行った。本研究が目指すモノリンガル記述の独創性は高く評価された。他のコイサン語研究では、媒介言語であるツワナ語や英語を通して調査が行われているので、本研究のアプローチは実現が困難であり、その意味でも肯定的な評価をうけた。表記法の原則の通言語的統一、識字教育へのインパクトについても、意見交換を行った。 8月にアフリカ言語学国際会議で研究発表を行い、コイサン関係者と辞書編纂および、アフリカにおける識字教育一般にかんする情報交換を行った。 12月~1月にボツワナのカラハリ地区のグイ集落であるニューカデに滞在し、モノリンガル記述を利用しての識字教育に関する、意見の聞き取り調査をした。英語の読み書きができる若いグイ人の協力をえて識字資料のインターフェースの問題点について示唆をうけた。現在、これまでの調査結果の総括を行っている。
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