平成20年度の研究業績乏して特筆すべきは出版が決まった2本の論文とブラジルおよびアルゼンチンで行ったフィールド調査の成果である。 “Reaching out with Chimugukuru"ま、平成19年度にニュージーランド・アジア研究国際大会で口頭発表した内容を改訂したもで、Asian Diasporasという図書の一章として出版されることになった。継承沖縄語話者のディスコースに見られる<ちむぐくる>などの象徴的シンボルがディアスポラの経験を通して再定義される様子を記録し、継承言語の語彙を用いて指標されるアイデンティティを3つのタイプ (汎文化的、汎沖縄的、汎ディアスポラ的) に分け、それぞれの異同をフィールドワークの結果をもとに明らかにした。 “International Collaboration and the Management..."は、平成19年度に太平洋学術会議で口頭発表した論考をもとに、その内容を刷新してCurrent Issues in Lanuae Planningという国際学術雑誌に発表したものである。「世界のウチナーンチュ大会」のように世界各地かち多様な言語を話す人々が集うイベントにおいては、<言語計画のための国際協調>と< (将来の) 国際協調のための言語計画>の両面をにらんだ大会運営が求められる点に着目し、多言語リソースをどのように計画、管理、分配したのかを批判的に明らかにした。分析の結果、先回の大会における言語計画は、沖縄入ディアスポラが共有するアイデンティティを強化することによって国際協調に寄与する反面、英語偏重に陥ることは今後の国際協調への障害となりかねないという結論に至った。 ブラジルとアルゼンチンにおけるフィールド調査では、多くの継承沖縄語話者と対話し、聞き取り調査を行った。また、移民史や記念誌などの貴重な資料を入手することができた。なかでも、「ブラジル沖縄県人移民100周年記念大会」で録画記録した舞台劇は日本語、ポルトガル語、沖縄語が併用され、研究課題であるアイデンティティの指標性を分析する上で重要な資料となると思われる。平成20年度は、こうした資料を整理し、舞台劇のトランスクリプトの作成を行った。今後は沖縄で上演された創作舞台劇と比較しながらコードの切り替えやメタファー分析を進めていく予定である。
|