研究概要 |
NIRS(Near-infrared Spectroscopy,近赤外分光法)は,大脳を透過した近赤外光の光量変化から神経活動に依存して変化するヘモグロビン濃度変化(Δ[Hb])を算出し,脳機能を非侵襲的に計測する方法である。本研究では,日本語学習者(上級レベル)および日本語ネイティブによる日本語聴解時における両者の脳活動の相違について検討した。 30秒間の課題条件と30秒間の安静条件(無音)を交互に8回繰り返す刺激を作成し,測定を実施した。NIRSデータ分析は,1秒間の移動平均処理を施した後,計測チャネルごとに加算平均した。各チャネルにおいて,課題開始直前安静8秒間の酸素化ヘモグロビン濃度変化量(Δ[Oxy-Hb])のばらつきからBonferroni補正を行った有意水準(z-score>3.053)をチャネルごとに算出し,課題中に有意水準を越えるΔ[Oxy-Hb]が見られたものを有意な変化のあったチャネルとした。その結果,日本語学習者ではブローカ野周辺と推定される部位(右半球は同等部位。以下同様。)を中心に前頭葉から側頭葉の広い範囲で賦活が認められたのに対し,日本語ネイティブはブローカ野周辺および側頭葉聴覚野近傍と推定される部位において限定的な賦活が認められた。以上の結果から,学習者の場合,上級者であっても日本語聴解時は言語処理負荷が依然として高く,脳活動は広範囲にわたり活発であるのに対し,日本語ネイティブは脳活動の範囲が限定的で最小限に活動していることが示唆された。
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