研究概要 |
本課題の目的は、コロケーションレベルの処理能力における母語の影響のを調べることを通じて、外国語の運用能力・語彙習得のモデルに理論的貢献をし、教育的知見を生み出すことである。初年度は以下のように、ほぼ計画通り研究を遂行した。 まずBNCを使って、英語のコロケーションのうち日本語に直接翻訳できるもの(e.g., warm wind, dropbombs:対応コロケーション)と直接翻訳できないもの(e.g., slow learner, buy insurance:非対応コロケーション)を、それぞれ24個ずつ、構成単語の頻度・コロケーションの頻度・コロケーションの長さを統制して抽出した。翻訳の直接性については3種類の辞典と5人の英語力の高い日本人による翻訳を通して確認した。その後、アリゾナ大学で開発されたDMDXという心理言語学実験用のソフトを使って、コロケーションの許容性判断課題を作成し、英語母語話者20人と、日本語母語話者28人に対して実施した。英語母語話者の結果は予想通り、2種類のコロケーションの間に、反応時間でも誤答率でも差がなかった。日本人は、非対応コロケーションにおいて誤答率が高かった。しかし反応時間には差がなかった。誤答率に差があったことは、コロケーションの習得に母語が影響することを示すが、反応時間に差がなかったことは、L2の語彙処理におけるL1媒介仮説に反する。むしろこの結果は、コロケーション処理における全体的処理仮説(holistic hypothesis)を支持するものと考えられる。つまり「母語との対応関係はコロケーションの習得に影響を与えるが、いったん習得されるとコロケーションは母語を介在させないでまとまりとして処理される」という習得過程を示唆しているように思われる。来年度以降は言語能力の異なる学習者を組み込むことにより、さらに発達的観点から実証研究を続ける。
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