本年度は、これまでに収集した史料の分析、ヤンゴンでの現地調査、論考の発表をおこなった。 まず、これまでに収集した史料、および現地調査(2009年10月、ミャンマー国立公文書館)によって閲覧した史料の分析をつうじて明らかになったことは、デルタ地域で、植民地政庁の下級行政官となったビルマ人たちが、昇進や給与増額、新たなポストへの異動など、自身の要望を率直に表明しているということであった。ここからうかがえるのは、植民地政庁にたんに従属しているというよりも、新たな環境に柔軟に対応して、そこから自己利益を引き出そうとしている人びとの存在である。もちろん、こうした要求がすべて受け入れられたわけではなく、あくまでも植民地行政の枠組みにおける話ではあるが、こうした人びとの存在は、植民地政庁にたいする協力あるいは抵抗という、これまでの二項対立的理解(これ自体は重要な観点であることはいうまでもない)ではこぼれおちてしまうものといえよう。これら下級行政官たちが、住民たちとも接触する立場にあったことを考えると、デルタ地域社会の特質を考えるうえで、こうした人びとの果たした役割に着目する必要性を認識した。 つぎに「ビルマ-問い直される通説-」(東南アジア学会監修・東南アジア史学会40周年記念事業委員会編『東南アジア史研究の展開』に収録)を発表した。日本におけるビルマ史研究の成果と課題を記したもので、本研究課題を遂行する過程で得た、史料に関する情報、知見も念頭におきつつ、まとめたものである。
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