初年度はオーストリアにおける有志消防団協会の歴史的位置付けに関する作業を中心に取り組んだ。特にオーストリア史における協会研究を体系的に文献収集するとともに、自由主義社会の考察に重要な分析の視角である「公共圏」についての諸理論を整理し、有志消防団協会の公共空間における位置価値を確認した。 本研究の具体的検証の対象となるホーエンエムス市の有志消防団協会に関しては、オーストリアで関連史料の収集を行ない、同協会の創立から現代に至るまでの歴史を明らかにした。また、他のオーストリア地域の有志消防団協会との比較も視野に入れながらその主な活動内容を調査した。具体的には消防団団長を頂点とした準軍事的な編成原理に基づく近代的な組織化や、自治体市政の協力を前提としたさまざまなレベルにおける消防団大会の参加・開催や防災訓練の規律化、さらには消防団幹部教育の実践や消防団舞踏会などの祝祭の開催などの諸活動について調査し、ホーエンエムス有志消防団協会の組織の具体像と市政との関係の把握に努めた。 これらの調査結果に基づいて、1.ホーエンエムス有志消防団協会には、郷土を保護する意識=市民的価値の普及に努め、そこからさらには地域密着型の郷土愛の醸成に貢献する役割が認められる反面、2.そうした「市民」的価値を共有できない団員の「排除」に顕著に見られるような「市民型」の「開かれたメンバーシップ」の理念と矛盾する状況について議論し、3.19世紀後半〜20世紀のオーストリア自由主義社会に内在する「閉鎖性」の問題を検討した。その成果は、部分的に社会思想史学会におけるセッション報告、及び韓国・ソウル市において開かれた第5回国際大衆独裁会議における研究報告と討論に反映させた。また、より詳細な成果は同国際会議の成果論文集(2009年中に出版予定)の発表原稿に反映させる予定であり、現在その執筆準備を進めている。
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