本研究課題二年目の20年度は、主にオーストリアにおける有志消防団協会の組織化の過程を歴史的に明らかにする作業に取り組んだ。特に、自由主義社会の変容とナショナリズムの親和性の問題を視野に入れつつ、町の人々の安全とその財産を(火事)保護するという自由主義的な結社型の有志消防団協会が、社会秩序全般を担う存在として官憲権力に次ぐ重要な位置を占めるにつれ、今日の市民参加型ボランティアの原型を形成し、帝国全土に組織化されたネットワーク型組織へと発展していく過程を、主に次の三点から調査した。 1.本研究の中心的な調査対象であるホーエンエムス市の有志消防団協会については、昨年度に引き続きオーストリアで関連史料の収集を行ない、さまざまな祝祭(全国消防大会や舞踏会)を分析し、間-地域的、また超地域的ネットワークが形成されていく様相を追究した。2.ホーエンエムス市のユダヤ共同体とキリスト教区の住民の間の関係を調査し、帝国が資本主義社会へと移行することに伴い獲得した自由主義ブルジョワジーのヘゲモニーが、1880年代以降の大衆社会出現とともに相対化された結果、消防団も大衆的なカトリック化とユダヤ共同体の周縁化を経験する様子を歴史的に考察した。3.昨年度同様にオーストリア国立図書館にて『オーストリア連盟消防団新聞』及び諸領邦レベルの消防団新聞を調査した。特に非-国民的境界領域であるホーエンネムス市の消防団の問題と、体操協会との摩擦や、国民主義的地域紛争が深まる境界領域の消防団の諸問題との比較検討を進めた。 これらの成果は、20世紀のファシズム体制下の「市民参加型ボランティア」の意義を視野に、国際シンポジウム(ウイーン)で日本の近代自由主義を主題とした研究発表上で部分的に反映させた。21年度には日本西洋史学会で研究報告及び学会誌への投稿論文において、研究成果を反映させる。
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