5月には主要調査対象であるドイツの市民社会組織「行動・償いの印」の設立50周年式典に参加し、この組織の社会的位置づけ、活動範囲、「和解」の実例を具体的に把握した。9月にはプラハでこの組織の協力者であるユダヤ人女性にインタビューし、またベルリンにも滞在して来年度の長期現地調査の準備を進めることができた。3月に東京のドイツ史研究者からドイツ-旧植民地(ナミビアなど)関係に関する情報を収集した。これを参考に来年度は植民地支配と和解のテーマについても調べる予定である。 6月の文化人類学会では分科会「平和の人類学」の代表者を務めた。私はこの研究課題の成果を2つの演題に分けて報告した。一つは人類学的平和研究の理論的方法論的概観、もう一つはドイツでの市民社会と歴史和解とに関わる調査結果である。10月から国立民族学博物館共同研究「平和・紛争・暴力に関する人類学的研究の可能性」をスタートさせた。私が代表者を務め3年半の期間に十数人のメンバーで研究会を開催し、成果を論文集として出版する。この中で本研究課題の成果を他の研究者と議論する。7月には国際シンポジウム「市民がつくる和解と平和」の事務局長を務め、国際的なパネラーと議論を行なった。その一人として「行動・償いの印」事務局長を招いた。これは本研究課題の一つの成果であり、これからの遂行にも有益な機会となった。 人類学的平和研究の方法論のキーワードになるべき「現場」と「エスノグラフィー」をテーマに二つの論文を執筆した。「「現場」のエスノグラフィー」(研究発表欄参照)と「エスノグラフィーとナラティヴ」(野口裕二編『ナラティヴ・アプローチ』勁草書房に収録予定)である。ドイツの市民社会の平和実践に焦点を当てた論文「難民-現代ドイツの教会アジール」(研究発表欄参照)と事典項目「難民と庇護」(研究発表欄参照)を執筆した。
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