本研究は、急速な経済発展とともに現代的企業法制度をもつに至っている中国において、当該法制度が如何に運用され、如何なる企業文化・ビジネス法秩序が成立するかについての見通しを立てる上で、長期にわたる時系列的変遷の中での解明を試みることを目的として掲げている。そのための具体的方策として;1)中国における企業体・法人の歴史的形成過程及び時代ごとの国家との諸関係の解明;2)これら諸関係の基底に存する社会構造、具体的には宗族・地域共同体の編成が、どのように存立して企業体の在り方を規定していたか;3)現代中国をも強く規定するこうした社会構造が、(めまぐるしく変遷する)企業法制度自体ではなく、その運用形態・企業文化をめぐる秩序形成に如何に影響しているかを解明する、ことを目指している。この中で2008年度は1)2)につき(従来日本・英語圏・中国で基本的にばらばらに存在していた「宗族」論の水準及び意義が何であるかを(従来学界に存在しなかった水準で)再構成する論考を発表し、更に「宗族」の管理・運営及びその近代法体系との接触の意義についての考察として、「信託」と「法人」に関する諸議論と、「宗族」との関連について議論を進め、その過程でこれら近代法的諸概念の歴史的基層についても若干の議論・調査を行った。更に3)については現代中国の企業文化を形成する大きな要因となっている米国との相互作用につき、米国で聞き取り調査を行った。特に90年代末以降急速に進む(80年代から継続的に米国に留学した、人材の帰国を中心とする人の往来とそれに伴うアメリカ的なビジネス上の慣行・制度運用の在り方の浸透、更にはもともと存在したある種のエリート層が、アメリカの名門ロースクール・ビジネススクールへの留学・帰国の過程を経て新興のネットワークを築き、企業文化・企業法秩序の在り方に影響を与える様が明らかになりつつある。
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