本年度は最初の年度であり、予定通り基礎的資料の収集と端緒的理論活動に重点を置いた。 1)基本的研究課題である「仮託的保護法益としての自己決定権」の研究素材として、医療訴訟と取引的不法行為の領域における文献と関連裁判例を網羅的に収集する作業を開始した。とりわけ、医療訴訟の領域での「期待権侵害論」、「延命利益論」、「治療機会喪失論」などの新しい判例の動向の理論的意義について考えた。 2)副次的研究課題については、セクシュアル・ハラスメントやいじめ、パワー・ハラスメント関係の文献と裁判例の収集に力を注いだ。関係して、水谷英夫(セクハラ、パラハラを素材とした「関係性としての権利」の考察)、小島妙子(親密圏における暴力・虐待と法)の両弁護士を招聘して、研究会を開催した。小島弁護士とは、これを契機として、ジェンダー法学会内の「ジェンダー概念」研究WGで研究活動を協力して実施することになった。また、人工生殖と自己決定権について、代理出産等に関する近時の判例の理論的意義について検討し、最初のまとめを北大民事法研究会で報告した(2007年12月)。また、近時の家族法改正動向を、自己決定権の視角からまとめる作業も行い、札幌司法書士会主催の講演の形でその中間報告を行った(2008年3月)。 3)比較法的検討としては、フランスにおけるセクシュアル・ハラスメント関係の文献の収集と整理、PACS関係立法資料の収集と整理を開始した。他方、自己決定権自体を対象とした文献、あるいは現代の権利論自体を対象とした文献の収集については、作業は難航している。 中間年度である来年度は、引き続いて基礎的資料の収集・整理を行うとともに、理論化の活動にも力を注ぎ始める。また、基本的研究課題である「仮託的保護法益としての自己決定権」の検討を重視するつもりである。
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