知的財産法の問題のうち、侵害と帰属に分けて、法と経済学と比較法的考察の両面から検討した。侵害の局面で、わが国の文献は、法と経済学のみではほとんど説得力がないように考えられた。他方、拙稿では、経済学の視点、用語から考え方の対立を著作権の侵害主体、公正使用の問題において、モデル化した(「サーチエンジンにおける著作権侵害主体・フェアユースの法理の変容」筑波法政46号、「著作権侵害の責任主体:不法行為法および私的複製・公衆送信権の視点から」斉藤博先生御退職記念論集)ものの、比較法的考察が中心であった。このように新しい問題について法と経済学を補足的に用いるのに有効な局面が存在するかもしれないと考えられる。 これに対して、権利の帰属の局面では、法と経済学の考え方から有益な視点を導き出しているものは管見の限りみあたらず、むしろ、説明の跡づけとして用いる弊害、結論を無理やり導出する弊害、インセンティブのみで説明しようとする弊害が、わが国の文献でも顕著に見られた。 その他、独占禁止法、社会学におけるアンケート調査、他の自然科学における研究手法、特許明細書に見られる論証方法等を検討し、伝統的な法学の研究手法と比較した。 結論として、法の趣旨、比較法的考察と同様の頭の働かせ方は、これら他の分野でも見られることであり、また、経済学や定量的考察が必ずしも有効でない局面が、経済に近い知的財産法においても広く存在することが明らかとなった。今後知的財産法のさまざまな局面で法と経済学が有効な局面を探究していきたい。
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