国際関係における他者認識としての<日本イメージ>が、とりわけ世界各地のムスリム・コミュニティにおいてどのように形成されるのかを探る本研究において、初年度研究実施計画の主な柱は、理論問題と調査ポイントの開拓とにあった。後者については、寧夏回族自治区政府関係者とのコンタクトも新たに開拓し、今後の調査活動に大きな飛躍を築いたと同時に、フランスにおいても日本イメージ導入媒介者でもある、サブカルチュアにも造詣の深い、フランス人日本研究者との新たな関係が構築され、研究の基盤を着実に固めつつある。 ただ、後者については、本来の計画では、国際政治理論に「イメージング」研究の諸成果をいかに組み込んでいくのか、政治理論における視覚の問題から学問研究における「イメージング」への新たな領域への応用可能性について探るべく、試行錯誤を続けてきたが、国際政治理論をはじめ社会科学では「イメージング」研究は未だ充分な成果をえているとはいえず、脳イメージング研究などに関する現状を把握することに集中せざるをえなかった。しかも、その「応用」には未だかなりの研究時間を投入する必要があるようだ。 総合的に見ると、19年度における研究成果は以下のように整理できる。第1に、<共感される日本イメージ>の形成過程の分析という「問題領域」を共有できる研究者の一定の「国際化」できたこと。今後はそうした研究者との共同作業によって、よりムスリム・コミュニティ内の日本イメージファクターを抽出していくことが可能になる。第2に、そうした国際連携と通じて、とりわけ中国におけるムスリム・コミュニティ研究では、省内政治過程にも具体的にコミットできるようなスタンスを構築したことである。これは<共感される日本イメージ>形成の、臨床実験にも有益な研究環境をえたといえよう。
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