現代におけるイスラーム現象は、世界がナショナルなもののユニットの集合体の構成物であるとするナショナリズムのフィクションを超え、「想像上の」一種の新たな普遍主義を構築しつつあり、そうした普遍主義的ヴィジョンの中で〈日本〉はどのようなイメージを形成保持変化しうるのかを研究の目的とする本研究は、最終年度20年度計画において、所期の実施計画を十分に達成できたとはいえない状況にあるといえる。新たに形成されつつある〈ヴァーチャル・ウンマ〉の実態の解明は、いろいろなかたちで非常に豊かな成果を挙げることができたものの、コストのかかるイスラーム世界各地を取材することによって期待された諸成果とヒューマン・ネットワークの構築は、ごく限定的なものにとどまらざるをえなかったからである。とはいえ、地中海圏におけるムスリムによる日本イメージ形成に特徴的なファクターと中国ムスリムにおけるそれとの一定の差異を、限定的とはいえ考究できたことは非常に意義深いものがあり、今後のこの分野における研究に一定の手掛かりをえたといえる。その意味で、さらに調査が必要な東南アジア地域、ロシア語・トルコ語系圏中央アジア地域、北アメリカ地域などにおけるムスリムのメディア受容状況をより鮮明に把握できれば、さらに興味深い〈共感される日本像〉形成パタンの検証ができるものと推測される。 また、本萌芽研究期間中、政治学における〈イメージング〉の理論的接合の意義についても、飛躍的な伸張が見られた。2009年度以降継続するために申請した科学研究費が採択されず、十分な調査検証ができないのは残念であるが、理論面での深化については、2009年度から2010年度にかけて発表を予定している学会報告等により、その成果を示していけるものと考えている。
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