研究概要 |
本研究は社会規範の形成・維持・脆弱化をネットワーク・ゲームとしてモデル化・分析することを目的とするが,初年度である今年度は,自然科学,社会学などの最新の研究成果をフォローする過程で,当初想定していなかった二つの関連する研究分野の重要性が見えてきた。一つは社会的繋がりの便益やコストを感じる脳のニューラル・ネットワークに関する研究で,これは神経経済学(Neuro Economics)あるいは社会神経科学(Social Neuroscience)という分野,もう一つは初期の人類や類人猿の社会(共同体)の形成の進化的研究で,呼称は様々であるが,生物人類学(Biological Anthropology)や動物行動学(Ethology)などと呼ばれる分野である。 前者が重要なのは,規範的行動に必要な共感の神経的メカニズムが解明されつつあることと,そのメカニズムが可塑的で,現代的社会生活がそれを変容(脆弱化)させる可能性が示唆されているためである。後者が重要なのは,人類の祖先や類人猿の社会が共同生活を維持するために個々のメンバー間の依存と対立の葛藤を処理するメカニズムは多様であることを教えてくれ,しかもそれを(複雑な現代社会と比較すると)相対的に単純なモデルとして提示してくれるためである。両分野とも最近10年間で新たな発見やそれに基づく理論的整理が進行中である。この新しい2分野の最新の研究動向をどのように本研究の理論モデルに取り入れていくかが目下の最優先の課題である。 なお,社会科学のネットワーク・ゲームに関する最新研究の一部は本研究担当者の参加する「21世紀COEプログラムトポロジー理工学の創成」で発行予定の電子ジャーナル「Topologica」(未刊行)でも推薦論文として紹介している。
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