研究概要 |
本研究は社会規範の形成.維持・脆弱化をネットワーク・ゲームとしてモデル化・分析することを目的とするが, 初年度である昨年度, 当初想定していなかった二つの研究分野, 神経経済学と生物人類学あるいは動物行動学の重要性に注目することになった。今年度はその研究の中間的な成果をそれぞれ一つの論文にまとめて発表した。 前者に関しては, 神経経済学における二つの研究の流れ, 即ち(1)ニューロサイエンスの研究成果を使って行動経済学の生理学的裏付けを行い, その理論化を模索すること, (2)経済学の理論モデルを使ってニューロサイエンスの研究成果を体系的に解釈すること, の二つが相補的に発展して, 社会規範の形成などにおける人間の意思決定についての理解を深めるのに役立っていることを明らかにした。また, こうした研究成果が政策提言にも利用され始めているが, 研究途上の分野であり慎重な対応が望まれることも指摘した。 後者については, 狩猟採集部族や類人猿の社会など比較的シンプルな共同体が存続のため個々のメンバー間の葛藤を処理するメカニズムに関して, 生物人類学などで近年研究が進んでいるが, それらの成果を基に, 倫理規範の形成過程のシンプルなゲーム・モデルを構築した。 今年度の後半にはこうした理論的な研究に加えて, 現実の制度化された社会規範とも言える法システムと社会規範の関係について, 本研究担当者の参加するグローバルCOEプログラム「多元分散型統御を目指す新世代法政策学」の中で「法と経済学」のこれまでの研究成果の検討, 法学や経済学の様々な研究者との研究会やセミナーでの意見交換を通して研究を進めてきた。従来の法システムの研究には本研究のような視点は欠けているため, この分野に新たな知見を加えることが可能だと思われる。
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