本研究課題にとって最も核となるのは、何といっても茨城県内の農村に住んでいた一農村青年がほぼ毎日附けていた詳細な日記である。そのため平成19年度においてはそのデータベース化をはかるためパソコンへの入力作業を行なった。その際、申請者が作業を行なったのはむろんだが、学生にもアルバイトとして依頼して作業をしてもらった。これは単に作業の補助をしてもらったばかりでなく、一個人の日記という極めてユニークなテクストを読解するためには、申請者が一人で読むのではなくて少しでも多くの眼で読んだ方が多様な問題設定が可能だからという理由も含まれている。事実、アルバイトを依頼した学生らからは1930年代の青年像についての新鮮な意見が提供されて申請者の問題意識を重層化してくれた。 ついで文献上の村落研究のため、農村社会学や経済史の先行研究の図書を購入・読書して戦前・戦中期の農村社会史の整理に務めるとともに、しばしば茨城県水戸市の県立図書館と県立歴史館に行って史料の複写を行なってきた。これらによって1930年代の日本農村の全体像のようなマクロな視点を持ちながら茨城県南西部という地域的特質に基づいた視点を得ることができた。とりわけ近世村落を対象にした生活史研究からは多くのことを学ぶことができた。ただし遺憾だったのは、この青年が住む自治体所蔵の史料が市史編纂後整理されておらず、見ることができなかったことである。20年度は市と相談して見せてもらえるよう努力したいと考えている。もっとも、この青年が居住していた集落(地区)にはしばしばフィールドワークを行なって、主として親族、遺族の方々や同じ集落内の人たちからの聞き取り調査は行なうことができた。次年度はこのミクロな調査を特に心がけていきたく考えている。
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