本研究の目標は、ソーシャルクオリティという考え方を日本の地域福祉分析に適用するためのモデルを構築することである。期間は2年間であり、当初の予定としては1年目(本年度)に理論的整理と地域福祉分析のための仮の枠組みをつくり、2年目に実際に地域分析を行い、モデルを精緻化するというものであった。 1年目である本年度は、ソーシャルクオリティの理論的な整理を行い、雑誌論文として成果物も作成した。また、地域福祉に取り組んでいる各地の社会福祉協議会やNPOの職員にヒアリングをして、この考え方を地域福祉分析に適用するための示唆を得ることができた。ただし、分析の枠組みをつくるまでには至っていない。それは理論的整理やヒアリングを通して、より深い問いを得たことによる。 ソーシャルクオリティの基本的特徴は、社会の発展と個人の成長の両方を追求すること。および、システムの統合と社会統合をともに達成しようとしていることである。この考え方を日本でも問題になっている社会的排除に引きつけて検討した結果をまとめたことにより、理論的な基礎は築くことができた。ただしヒアリングからは、欧州で生まれ、(超)国家的視野を持っているソーシャルクオリティの考え方を日本の地域福祉分析に直接に適用することはやはり難しいということがわかった。したがってこれからの課題は、数値的な指標化を急ぐことではなく、地域福祉分析により有効なモデルの枠組みを考察することである。特に地域福祉にとって生活世界とシステムという観点の持つ意味の大きさがわかってきた。ソーシャルクオリティの考え方をそのまま下敷きとするか、生活世界とシステムという観点に重きを置くか、一定の結論を出した上で仮のモデルづくりを行い、2年目の調査につなげていくことになる。
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