本研究は、就労の一形態として、精神障害当事者が児童・生徒に自分の病いの体験を語ることで、その語りの対価を得ること、語りの聞き手である児童・生徒の精神保健の向上と精神障害者に対する理解の促進を図ることを目的にしている。 本研究の特徴は、「語り部」養成研修を設定し、精神障害当事者が語りの技法を学びながら、自らの病いの体験を見つめ、それを自分の言葉で意味づけし、自分らしい語り(物語)を作成することに時間をかけたことにある。 語り部となった当事者は、地元の小・中学校や教育委員会の協力をえて、児童・生徒の他、教員や保護者にも語りを行ってきた。 その成果として、児童・生徒の精神障害(者)に対する正しい知識の習得と、精神障害者との社会的距離の縮小があげられた。 一方、精神障害当事者も語りの対価を得ただけでなく、「語る」ことの達成感や充実感、本研究の過程を通して、肯定的な自己認識への変容、自己有用感や自己効力感の向上、仲間意識の醸成、環境改善や社会資源開発への要望などがみられた。 さらに、精神障害当事者の語りがきっかけとなり、学校教育の中で、児童・生徒は誰もが自分らしく暮らせる社会とは何かについて考える機会になったとの評価を受けることができた。 このように、本研究は、精神障害当事者の語りが学校教育における精神保健教育や人権教育として有効的であるだけでなく、精神障害当事者自身のリカバリーの促進にも有用だったといえる。
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