研究概要 |
障害児発達の生態学理論の構築のため,保護者へのインタビューと子どもの相談記録を元に,マクロ〜ミクロレベルの生態学的環境の相互影響過程を時系列的に再構成し,障害児学級と通常の学級における授業の分析と,障害児学級担任教師へのインタビューを行うことにより,ミクロレベルでの活動システムの分析・記述を通じて,子ども達が何を学び変わって行くのか,そうした変化が異なるシステムにどのように影響し,それが子どもと周囲の生態学的環境の関係の変化を生み出すのか,そして,その過程で子どもの人格がどのように立ち現れるのかを明らかにしてきた。 本研究の分析結果から,障害児の人格(personality)とは,意味生成的(semiogenetic)で能動的な主体(active agent)である子どもが不断に周囲の世界と関わり,個人の意味的な内的世界を形作って行くことによって形作られるものである。刻々と形作られるそうした人格が,同時にその子どもの周囲の世界への関わり方を方向付け,また経験の意味づけ方を方向付けて行く。こうした意味生成システムとしての人格は,全体的な構造を持ち,要素としては個別に取り出すことができるような個別の能力,性格特性を含み持っていたとしても,それだけを取り出して訓練したり教えたりできるようなものではない。一方,そのような人格としての子どもは,同じように人格的な存在である周囲の子ども達との関わりの中で,社会的に意味づけられて行く。学校という社会的・制度的な枠組みの中に身を置き,それを共有している集団の中で,そこでの振る舞いを通じて互いを認め合い(逆に否定的な力学が働く場合には排除し),そのことを通じてその子“らしさ"が社会的に構成されて行く。したがって子どもの人格は,一方では経験を意味づけて行き,同時にまわりから意味づけられて行く,そうした二重性をもったものと考えるべきである。
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