研究概要 |
障害児教育が特殊教育から特別支援教育へと転換する中で,障害のある子ども達を取り巻く環境も大きく変化してきた。大きく言えば,インテグレーション(障害児とそうでない子どもを区分した上で統合を目指す立場)から,インクルージョン(子ども達を障害の有無で区分せず,それぞれの子どもの個別のニーズに対応する教育を目指す立場)への転換と言うことができる。本研究では,ひとつの地域(大阪府A市)に焦点を当て,A市の小・中学校の障害児学級に在籍する,あるいは過去に在籍し,現在は卒業した児童・生徒とその保護者,障害児学級担任の教師,校長・教頭等の管理職,教育委員会の担当指導主事を協力者としてインタビュー調査を行ってきた。次に,その結果を基に,障害児発達の生態学的な環境の特徴についてまとめ,現在のこの生態学的な環境が,どのような歴史的経過の延長線上に存在しているのかを簡潔に整理し,その位置を確認した。その上で,インクルーシヴな環境のもとでの障害児の発達支援の目的について,ヴィゴツキーの文化-歴史理論の枠組みを拡張しつつ理論的な整理を行った。端的に言えば,障害児の発達支援が目指すのは子どもの人格発達を支援することである。人格は,様々な性格特性の束のようなものとして考えられることが多いが,オールポートの定義にもあるように,人格はそのような個別の要素へと解体できるものではなく,様々な要素が相互に関連しあう,力動的な構造を持つものである。さらに一歩進んで,人間は,人との関わりの中で不断に意味を生成して行く存在であり,そのようにして不断に周囲との社会的な関係を築く中で形作られるものが人格である。したがって,子どもとともに生き,時間を刻んできた周囲の人間との関係を抜きにその子どもの人格を考えることはできないのであり,インクルーシヴな環境の中でこそ障害児の人格発達が十全に達成されることが目指されるのである。
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