研究概要 |
本研究の目的は,日本語を母語とする児童が第二言語(外国語)として英語を学習するときの認知メカニズムを解明し,その成果をふまえて,英語だけでなく日本語の習得をも促進する英語の学習法を開発することである。 この目的に沿って本年度は,小学校の新学習指導要領における高学年児童の外国語活動を想定し,小学校6年生児童を対象とした実験を行った。昨年度の小学校5年生児童についての実験成果をふまえ,中学校1〜3年生レベルの英語単語と,中学校1年生レベルの英語文を材料とした。児童は,パソコンを用いて,毎日60分の学習を約1ヶ月間続けた。主な課題は,聴覚提示された英語のリピーティングとシャドーイング(英語音韻表象の形成),英語の視覚提示情報との照合(英語の形態・音韻情報の対連合による符号化),日本語の視覚提示による意味の確認と音読(日本語への口頭翻訳)であった。実験の結果,英語の語彙力と音読の流暢性が向上した。日本語では,文章の音読時間が短くなったが,流暢性に影響はみられなかった。知能検査の成績を学習前後で比較したところ,下位検査(検査形式)毎に次のような傾向が得られた。「符号交換」「図形分割」など,数学的・視空間的要素が強い問題では成績差はみられなかったが,「類似・反対語」「乱文構成」「単語完成」など,言語的要素の強い問題では成績が上昇した。特に,単語がランダム配置された(語順が適切でない)日本語文を読み,その文に対する答えを選択する「乱文構成」では,成績の伸びが比較的大きかった。聴覚・視覚提示された英語の意味を視覚提示された日本語で確認するとき,英語の語順に沿って日本語に口頭翻訳する課題の効果が生じたと解釈できる。英語文に対応する日本語文(翻訳文)の理解に際して,語順を意識させることが,日本語の習得に有効である可能性が示唆された。
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