サイコパシーとは、利己的・衝動的で、犯罪のリスクが高い性格特性である。このような一見、社会的に不適応的な性格特性が、人口中一定割合維持されているのは、この性格特性が有利に働く場面があるからだと考えられる。 このような問題意識のもと、本研究では「最後通牒ゲーム」と呼ばれる行動経済学的な意思決定課題を用いて、合理性と感情が葛藤を生じるような場面で、サイコパシー特性が報酬獲得に有利に働く可能性を検討した。この課題では、ある金額を2人で分ける場面が想定され、相手の提案を受諾するか拒否するかの決定が求められる。不公正な提案がなされた時、合理的に受諾して報酬を確保するか、損失にも関わらず感情的に拒否するかのジレンマ事態が生じる。 平成19年度には、サイコパシー傾向の高い個人は、不公正な提案に対しても心拍・皮膚電気反応などの自律神経系反応が見られず、受諾確率も高いことが見出された。これは、こうした個人で感情反応が弱いことを反映していると考えられる。平成20年度には、同じ課題を遂行中の脳活動を、fMRIにより検討した。その結果、不公正な提案がなされた場合、感情処理を担う島、前部帯状皮質、前頭眼窩皮質などと、意思決定を担う背側線条体に賦活が観測された。ところが、サイコパシー傾向の強い個人では、感情に関連する脳部位の賦活が顕著に弱いことが見出された。 これらの結果は、サイコパシー傾向を有する個人は感情に欠如が存在すること、それがために不適応に陥る場合もあるが、反面、自己の感情を抑制して合理的に振る舞うことを求められる場面では、かえって適応的になることもありうることを示した。これらの知見により、サイコパシーという特殊な性格特性の理解を、より深めることができたと考えられる。
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