研究概要 |
本研究の目的は,遺伝カウンセリングにおいて臨床心理士が提供できるほどよい「心理的援助」の要件を探索することである。本年度は遺伝医学の基礎的理論を修得した直後の医学部生を対象として,実際のカウンセリング場面のイメージを活性化させる教示を与えた後に自由記述式の回答を求めるという手続きを繰り返して調査を行った。得られた主な結果は以下の通りである。(1)自分が遺伝子検査・染色体検査や出生前診断を受ける当事者になった場合,ほとんどの学生が一様に不安や怖れ,悲嘆,罪責感,不条理感等を体験するであろうと想像していた,(2)そのような体験をしているクライエントに自分がカウンセラーとして相対する場合,まず不安を取り除くための対応をするだろうと回答した者が最も多く,(3)そのためには正確な情報提供が必要であると考えられていた。(4)一方,傾聴を重視したいと回答した者には不安や絶望といった感情の取り扱いの難しさを強調する傾向が認められた。全体的に回答は「不安の除去」重視群と「傾聴」重視群に大別され,これは遺伝カウンセリングの現場における医師と臨床心理士の役割分担に対応すると考えられた。自験例を検討した結果,このような役割分担には「知っておきたいと思うが,怖くて知りたくない気持ちもある」といったアンビバレントな状態にあるクライエントを一方的に分裂させる危険性があり,そのような事態を回避するための具体的関与法を提示する必要性が示された。そこで非言語的コミュニケーションに着目し,カウンセリング場面の中でクライエントが発するサインを関与観察によって抽出し,目録化を進めているところである。
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