3年間を目途に、ドイツとイギリスにおける第二次世界大戦に関わる戦後の歴史教育を調査し分析する本研究の第1年にあたる平成19年度は、1990年代以降に出版された後期中等教育用歴史教科書の調査に焦点を絞った。この時代は、両国が位置するヨーロッパにおいて、冷戦の終結、それに伴う東西ドイツ統一、EUの組織と機能の飛躍的発展等、時代の変革を象徴する重大な政治的・経済的・社会的変動があったからであり、その前後における歴史観の相違を検討することに集中した。研究計画に従い、平成19年夏季(第1回)と平成20年春季(第2回)の休業中の2回にわたり、現地調査を行った。ただし、第1回は、所属する筑波大学と学術交流のあるバイロイト大学に招聘されたことで、イギリスでの調査は第2回海外調査に行い、ドイツでの調査も同大学のあるバイエルン州で行った。このことは、保守州として従来からは所謂「ホロコースト教育」の遅れを指摘されてきた同州が90年代以降、遅ればせながらしかし急速に「過去の克服」に取り組む政治的・教育的姿勢を取り出したことへの把握に繋がり、むしろ研究上大変有効であった。具体的には、ニュールンベルクにあるナチ党大会会場跡を利用した「ドキュメンテーション・センター」と、ナチ党第2の拠点とされたベルヒテスガーデンにある「ドキュメンテーション・オーバーザルツベルク」で、従来の強制収容所跡を利用した歴史博物館とは異なる歴史観・教育館を見て取り館研究員へのインタビューも行った。第2回海外調査では、計画通り、歴史教科書の調査を、ドイツではゲオルク・エッカート・インスティテュートで、イギリスではロンドン大学教育大学院図書館にて行った。またドイツでは、本研究の開始前から継続訪問をしていたテオドア・ボイス・ギムナジウムの歴史授業を見学し、教員にインタビューを行った。
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