2年目にあたる本平成20年度は、初年度調査の継続として夏期に、ロンドン大学教育大学院図書館(イギリス)とゲオルク・エッカート・インスティテユート(GEI)(ドイツ)における両国の歴史教科書調査を行なった。昨年度調査に新たに加えた視点としては、政府の歴史政策と教科書内容の変遷という点で、今年度は日本の学習指導要領に当たる政府や公的教育行政機関が提示してきた学習・教育の指針となる文書を丹念に追い、それらと採択教科書を照らし合わせる作業を行なった。具体的には、イギリスに関しては、1989年から導入されたナショナル・カリキュラムを、それ以前は各個別の高等教育機関や複数のそれらを統括する教育行政機関が入学試験に必要な学習内容を示したエグザム・シラバスを取り上げた。ドイツは前年度同様、ニーダーザクセン州を取り上げ、レアー・プラン(教授計画)およびシュールブーフ・フェアツアイヒニス(州教育省が毎年示す採択教科書リスト)を、終戦直後の時期から2007-8年度版までを調査した。ロンドンからGEIまでの空路の確保が出来なかったという物理的条件が、結果陸路を用いたことで途中のベルギーでの歴史教育の実態も調査できたことは、国際的比較の視野を広げることができたという点でも、またドイツの侵略を直接受けた国の歴史教育の一端を垣間見ることができたという点でも成果があった。また、GEIが閉まる週末を利用し、ベルギー同様ナチスに侵略されたが、西欧とは異なる歴史認識を示してきた東欧旧共産主義国のチェコで調査を行なうことができたことも、今年度の海外調査で展開できた研究の広がりであったと考える。他方、このために今年度は旅費に偏った経費の支出となった。
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