研究概要 |
先進諸国の中でも英国は価値形成教育のあり方を積極的に模索し,移民とその多様な文化を同一の社会の中に包摂する一つのモデルを提示しているとの観点から,英国における新労働政権下においてナショナル・カリキュラムに取り入れられたシティズンシップ教育についての政策理念,立案過程,実施状況について歴史的構造的に解明することを第一の課題とした.ところが,2007年6月にブレア首相が突然退陣し,ゴードン・ブラウンが首相に就任することになったため,ブレア政権とブラウン政権の教育構想の全体と,そこにおけるシティズンシップ教育の位置づけを対比的に検討することが必要となったが,ブレア政権において10年間財務大臣を務めてきたブラウン政権においては,ブレア政権後期の柱になった2003年度財務相緑書において明らかな関与が認められるのであり,その観点からも後期ブレアの教育政策路線を引き継ぎ,また拡大していることが明らかである.そこにおいて,シティズンシップ教育は社会的包摂の理念のもとに,教育の場とコミュニティの連携の中で展開されている.制度的には地方当局が就学前の児童から19歳までの時期の健全な発達の義務の責任をますます包括的に負うことになってきている.それは,特にブレア政権に後期におけるコミュニティ強調の改革-教育をめぐる諸問題をコミュニティの中で解決させる-と併行して展開されているものであり,そこにおけるシティズンシップ教育は,子ども・青年に生活の場であるコミュニティの中での人種的偏見を認識させ,公正な社会のあり方を模索させようとするものであった.当該年度においてはブレア政権及びブラウン新政権のシティズンシップ教育政策の特質として,シティズンシップ教育が地方当局の主導の下でコミュニティ形成という政策枠組の中で展開されているということが解明された.
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