研究概要 |
ブレア政権における教育改革(制度、内容全般にわたる)は、2007年にブラウン首相に引き継がれることになる。ブラウン政権下においてはブレア政権の終盤で新たに制度化された信託(トラスト)学校制度が拡大されることになるのであるが、その理念において前ブレア政権との強調点の違いが見られるようになっている。シティズンシップ政策においても理念と展開がどのように変化してきているのか、検証されなければならない。こうした関心から、研究期間の第二年目においては、実際に英国で学校見学、資料収集を行った。また、研究成果としては「英国・フランスにおける市民性教育」を執筆した(平成20年度に刊行予定であったが編者の都合で刊行が遅れているため、本報告書には記載できないが、藤田英典編『共生の教育-理念・展開・課題-』に寄稿している)。これにより、英国のシティズンシップ教育における理念が多元化社会において有する可能性を明らかにしている。また、グローバルな世界におけるシティズンシップ(教育)のあり方を精力的に探求している英国の教育学者オードリー・オスラー博士及びヒュー・スターキー博士の共著書Changing Citizenship-Democracy and Inclusion in Education-(Open University Press,2005)の翻訳を関芽と共訳で行い、平成21年6月に勁草書房より刊行する準備をしている(すでに入稿済み)。同書の翻訳のプロセスにおいて著者である両氏と日本及び英国で研究交流し、グローバリゼーションと言語、そこにおける人権とシティズンシップの関係について知見を得ることができた。同書は近年におけるカントのコスモポリタン・シティズンシップの影響を強く受けたものであり、この問題をめぐる政治学的な論争に基づきながら多元化社会における学校におけるシティズンシップの実践のあり方と、それを通じたエスニック・マイノリティあるいは障害を有する子どもの人権をいかに保障しうるのかをテーマとしたものである。研究代表者は同書の解説を担当し、このテーマについてのこれまでの自身のデュルケム研究の蓄積に基づき、批判的に検討することを試みている。これは最終年度、さらに研究として深めるべき課題としている。
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