近年の分子生物学の発展の結果、高等学校における生物教育の内容と最先端の研究との格差が広がっている。分子生物学の分野は研究だけにとどまらず、すでに薬品、化粧品や食料品などの日常生活に入り込んでおり、中高生の関心も高い。こうした背景を踏まえ本研究は、中学・高校の中等教育現場における最先端の生命科学の教育法を開発することを目的とし、とりわけDNAを「複製」という現象を中心に理解すること、RNAが遺伝情報をどのように伝え、タンパク質を作り出していくかを「遺伝情報の複製」の観点から理解することを目的とした教材の開発に重点を置いている。そこで当該年度では、DNA複製や遺伝情報の複製をわかりやすく理解させるためのモデル教材ならびにカリキュラムの開発研究を行った。DNA複製現象を簡単に理解するための教材の開発においては、DNAファイバー法を用いた複製DNAの蛍光による可視化法について、可視化教材開発を目的とした改良法の検討を行った。その結果、蛍光標識に用いるヌクレオチドアナログの細胞への添加タイミング、スライドグラス上でのDNAのファイバー化における試薬添加タイミング等、いくつかの点において改良を行うことに成功した。DNA複製や遺伝情報複製ならびにセントラルドグマのモデル教材の開発においては、まずこれら分子生物学に関する正しい知識や、遺伝子組換え、クローン技術などに対して倫理的判断が可能な程度の分子生物学の基礎的な知識、科学的な思考力、判断力を身につけるため、本研究において開発を目指すモデル教材を有効に活用するための効果的なカリキュラムの検討を行った。その結果、(1)DNAはどこにあるか(導入)、(2)DNAとセントラルドグマ(はたらき)、(3)組換えDNA(技術)、(4)バイオテクノロジーと人間社会(人間との関わり)という四つの単元を柱とするモデル教材開発が効果的であると結論付けた。
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