研究概要 |
この研究は,諸外国での歴史教育における自国史と世界史の関係の現状を整理し,その構成原理について検討しようとするものであった。研究の対象としては,米国と英国に絞り,各々の国の教育課程,教科書,学力調査問題の検討を行ない,日本との比較を行った。このような検討を通して,各国の歴史教育の構成原理,獲得させようとしている学力,そして自国史と世界史の扱いをとらえた。 まず,英国では基本的に自国史と世界史の境界線は曖昧で融合的であった。基本的には学年進行とともに同心円的に歴史学習の対象が拡大し,KS1では身近な社会や地域を対象にしたテーマ史,KS2では身近な地域史と同時に英国史の概略と世界史の古代文明,KS3では,近世までの英国史と現代の世界史を扱う。ただし,各内容の構成は通史的と言うよりもテーマ史的に配列されており,歴史的知識やそれによるナショナルアイデンティティ形成というよりも,歴史的思考や技能の習得が目指されている。このことは,英国の教科書,及びGCSEの試験問題からも確認できた。 米国では,合衆国史と世界史が分離しており,その点は日本と同様である。しかし,合衆国史で扱われるのは基本的に自由で民主的な国家としての米国がいかにして形成されてきたかが扱われ,世界史では米国が登場する前の時代は世界各地のが文化・文明,15世紀からはヨーロッパとアメリカを中心とした世界史の展開を扱う。ただし,各内容の構成は日本ほどには通史的でなく,歴史的知識やナショナルアイデンティティ形成は重視されてはいるが,歴史的思考や技能の習得も大切にされている。このことは,米国の教科書,およびNAEPの試験問題からも確認できた。 日本の場合,日本史についてはナショナルアイデンティティ形成が重視され,世界史についてはナショナルアイデンティティ形成の意図は弱い。しかし,いずれも知識重視であり,歴史的思考や技能の習得は目指されていてもなかなか教科書や試験問題には反映していない。今回の研究は,その点に関する英国と米国についての調査と日本への導入をさらに検討する必要性を明らかにした。
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