特殊教育から特別支援教育への転換にあって、LD等の発達障害児の指導と支援がますます注目されている。しかしそこでは、学習に関する障害(LD)、行動に関する障害(ADHD)、対人関係に関する障害(PDD)は注目されているが、不器用に代表される運動行為についてはほとんど注目されていない。本研究では、こうした、発達障害児の不器用(粗大運動及び微細運動)に焦点を当てて、そのメカニズムを解明するとともに、指導支援の原則を考案することを目的として行われた。その結果、以下のような事柄を実態として指摘した。(1)運動行為は速度と正確性の2側面からみるとトレードオフする存在であり、前者を優先させれば後者が低下し、後者を優先させれば前者が低下する。そして、発達障害児の中には、より速度優先で運動するタイプと、より正確性優先で(その結果、作業速度を犠牲にして)運動するタイプがいることが推察され、それぞれの指導支援の方針が異なる。(2)児童期でこの運動の速さと正確性を学校教育で用いる教具によって仔細に検討したところ、まず正確性が獲得されたのちに、運動速度が獲得されていくという発達的ダイナミズムを明らかにした。(3)運動コントロールに重要とされる実行機能を測るテストである手指作業的課題を用いて行ったところ、発達障害児では年齢にともないその成績は向上する傾向が示された。こうした結果を受け、今後の研究課題について、知的機能の影響(知的障害の有無の影響)、障害種の差異、全身運動と手指運動の差異など、いくつかの研究課題を指摘できた。
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