研究概要 |
前年度は距離空間のランダムネットのラプラシアンを使って1粒子理想気体の平衡統計力学に当たるものを構成し,その自由エネルギーの摂動を調べ,それを使い,等体積のアレクサンドロフ空間の変形理論を構成することを試みた.これは粒子の生成消滅を記述しない非相対論的量子力学をモデルとする統計力学を距離空間に応用したものであったが,今年度はこの研究課題の題名にあるように,空間上の中性スカラー場を第二量子化した揚の理論に対応する平衡統計力学を構成することを試みた.まず点の個数を固定したネットを固定し,空間上の関数をそのネットの各点上の値で代表させることで,関数空間をユーグリッド空間(の列)で近似し,離散ラプラシアンを対角化する変数を一般化座標と見なし,その共役変数として一般化運動量を導入した.したがって,この座標ではディリクレ積分は対角化された二次形式となる.一般化運動量の標準的な二次形式とディリクレ積分の和によってハミルトニアンを導入し,次に一般化座標の配位空間のユークリッド空間上の複素L^2空間をヒルベルト空間としCCRにより量子化を行った.そしてその系の密度行列・状態和・自由エネルギーを求め,点の個数を無限にとりランダムネットでのそれらの極限を調べた.つまり,これは物体の振動を量子化したフォノンのボーズ平衡統計力学のモデルを我々の場合に導入した訳である.これにより自然とラプラシアンの平方根のスペクトルが表れ,摂動論を応用でき,自由エネルギーの二階変分の表示を得た.これを元に変形空間の新たな構成を試みた.
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