研究概要 |
本年度では、LHC衝突点0度方向でのニュートリノ測定について以下の項目に関して検討した。検出器の設置場所として、陽子陽子衝突点IP1から140m離れた場所にあるTANシールドとD2マグネットとの間隙約8mの空間を利用することを検討し、LHCf検出器設置の際に現場の視察を行った。ここでの陽子衝突中の放射線環境をシミュレーションした文献(N.V.Mokhov et al., LHC-Report-633)を調べ、目標ルミノシティ10^34cm^-2s^-1において、線量率で約10Sv/h、年間吸収線量で約10kGy程度になる事がわかった。想定する検出器として、CMOSピクセル検出器の利用を検討したが、現時点での放射線耐性の問題から、クォーツファイバー層とタングステン層のサンドイッチタイプを検討することにした。 0度方向のニュートリノフラックス計算を行うために、LHCfで使用しているシミュレーターEPICSからのニュートリノ情報の抽出を試みた。しかしD中間子などπ、K以上の重い中間子崩壊からのニュートリノの情報が保持されていないことがわかり、コード自体の改良を開始した。 この実験の物理的意義の検討を行った。本実験では10^17eV相当の宇宙線の反応が検証できることから、100TeV以上の大気ニュートリノで主成分となるprompt neutrinoのフラックスを実験的に与えうる可能性を指摘した。大気ニュートリノのこの成分は、現在ICECUBEなどで行われているニュートリノ天文学において重大なバックグランドと考えられているが、陽子衝突のフラグメント領域からの重クォーク生成は理論的な予想が難しいため、大気prompt neutrino fluxをLHCで実験的に検証できるという意義は大きいということが分かった。
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