交換相互作用とDzyaloshinskii-Moriya相互作用の拮抗により実現するカイラル螺旋磁気構造は、螺旋のピッチが小さいために既存の偏極中性子線回折法では構造評価が困難である。本研究の目的は、円偏光X線磁気回折法により螺旋磁気構造のヘリシティ(螺旋の右巻き左巻き)が決定できることを実験的に確かめ、放射光X線の高い角度分解能を活かし磁気構造物性的見地からのカイラル螺旋磁性研究を可能にすることである。本年度は、巨大電気磁気効果を示すペロフスカイト型マンガン酸化物DyMnO_3の強誘電相におけるサイクロイド型スピン配列のヘリシティを円偏光X線磁気回折測定により調べた。具体的にはSPring-8のビームラインBL46XUにおいて次の3点を実験的に確認した。(1)電場冷却により電気分極の方向を揃えると基本反射の低角側と高角側で磁気衛星反射強度に非対称性が現れること、(2)電場冷却の極性を反転すると磁気衛星反射強度の非対称性が反転すること、(3)左右円偏光を切り替えると磁気衛星反射強度の非対称性が反転すること。その結果、円偏光X線磁気回折法により螺旋磁気構造のヘリシティが決定できること、DyMnO_3の電気分極の極性とスピン配列のヘリシティに相関があることが明らかになった。また、カイラル螺旋磁性体MnSiおよびCr_<1/3>NbS_2の単結晶育成、予備測定、表面処理の検討を行い、円偏光X線磁気回折実験の準備をしている。
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