カイラリティとは鏡像対称性の欠如であり、重ね合わせることが出来ない一対の立体異性体を互いにエナンチオマーという。エナンチオマー間で物理的性質に差はないが、生理活性、光学活性に大きな違いが現れることがあり、さまざまな分野で盛んに研究されている。本研究は、円偏光X線回折によるエナンチオマー識別の実験手法を確立し、磁気光学効果やマルチフェロイクスとの関連で注目されるカイラル螺旋磁性体において、特異な電気磁気物性とカイラリティとの関係を研究することを目的としている。本年度に得られた結果を以下にまとめる。 結晶構造のカイラリティを識別する新しい円偏光X線回折実験手法を開発した。通常のX線回折実験では位相情報が失われてしまうために、結晶構造因子が複素共役の関係にあるエナンチオマーを識別することはできない。試料には、カイラル螺旋磁性体CsCuCl_3の互いに鏡像異性なP6_122とP6_522の単結晶を育成して利用し、SPring-8のビームラインBL19LXUにおいて円偏光X線回折実験を実施して左右円偏光に対するATS散乱強度の非対称性を観測した。これにより、異常分散を利用して結晶の絶対構造を決定するために多大な時間を割くことなしに、円偏光X線回折を利用して簡便にエナンチオマーが識別できることが実証された。また、結晶構造のカイラリティとカイラル螺旋磁気構造のヘリシティとの立体構造相関を直接調べるといった円偏光X線の特徴的な利用方法を開拓することができた。
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