磁気構造解析から磁気モーメント分布を求め、電子軌道を可視化するという試みとして、平成19年度の研究結果から磁気反射の測定範囲と分解能の問題が明確になった。逆格子空間での測定データと理論値を比較すると十分に満足できる結果であるが、実空間のイメージに戻すときにはフーリエ合成の分解能が効いてきて、大きなQのところまで大量のデータがないと満足できる分解能に達しないことが分かった。そこで、平成20年度は、効率的な磁気反射測定の手段として大型中性子湾曲二次元カウンターの開発を集中的に行った。これは、韓国原子力研究所との共同研究として実施したものである。 装置の開発は韓国が担当し、我々はどのように使用すればよいか、どのようにデータ解析すればよいのかなどの方法論を受け持った。特に、当該研究と結びつけることを強く意識した開発である。最終的な大型カウンター開発の前段階として、プロトタイプのカウンターを制作してテストした。試料として、最初は標準結晶のNaClで方法論の開発を行い、次に、複雑な磁気転移を行うテルビウム鉄ガーネットやマルチフェロイック物質として注目を浴びているHoMn_2O_5の低温高圧相の磁気反射測定を行った。簡単な結晶構造解析は十分な精度で行えるまでに装置やプログラムの開発を行うことが出来た。複雑な磁気構造は、まだ磁気構造解析のプログラムの問題で進んでいないが、データ収集は出来るようになった。韓国では、さらに大型の最終段階のカウンター制作に進んでおり、最終的には高効率でBragg反射の測定が可能になる見込みなので、今回の研究成果を今後生かして、次の段階の高分解能での磁気構造解析から磁気モーメントと電子軌道のイメージ化につなげていく見通しが立った。
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