本研究は、市場という経済現象を触媒反応という非平衡な化学の領域の数理モデルによって記述し、さらに、統計物理学の手法と数値計算で解くという従来の研究領域の枠を超えた研究である。市場における売り注文、買い注文をそれぞれ原子とみなし、価格を1次元の触媒の座標とする。注文の発生によって、それぞれの原子が吸着し、吸着した原子はランダムに移動するものとする。売りと買いの座標が一致したとき、反応が起こり、両原子が乖離するものと考えると、触媒反応と市場は非常に良く似た不可逆反応の特性を持つことがわかる。 触媒に付着した原子が触媒上でランダムウォークするような場合を想定すると、触媒反応は価格をランダムに変化させるようなタイプのディーラーモデルとみなすことができるので、その数理モデルにおいて市場の基本的な特性を再現するようにモデルのパラメータの調整を行った。その結果、経験的に知られている現実の市場の統計性をほぼ全て満足させることができるようになった。また、その上で、このようなミクロなモデルと市場の価格変動を確率的に記述するPUCKモデルとの関係を定量的に明らかにすることができた。 また、連続体極限を想定することにより、モデルを記述する方程式がランジュバン型の確率微分方程式になることもわかった。さらに、大きなスケールに繰り込んだときに成立する方程式を導出することもでき、バブルやインフレの振る舞いとも関係付けることができ、今後の応用研究への方針を立てることができた。
|