研究概要 |
本研究は、気体アルカリ金属原子を光ポンピングすることにより、固体のアルカリ塩の核スピンを偏極することを目的とした。その実現のためには、固体表面におけるスピン偏極移行の機構を知る必要があり、理論計算と実験により解明をめざした。実験でスピン相互作用を調べるためには、スピン間の結合とスピンの外部磁場との結合の大きさの関係を変化させるのが有効である。これまで磁場9.4Tと2.7Tで、CsHのCs核のNMR信号の増大を観測してきたが、さらに低磁場で観測するため永久磁石で0.56Tの磁場を発生させ、CsClとCsH塩のNMR計測をおこなった。前年度までに、CsCl,LiClなどのアルカリ塩で核スピン緩和時間などを測定し基礎データを取得したので、今年度は、気体原子の光ポンピングによるアルカリ塩のNMR信号の増大を試みた。実験してみると、0.56Tのような低磁場でもNMR信号が増大することわかった。さらに、信号増大の励起波長依存性を表すスペクトルを観測してみると、その形状に予想していなかった構造が表れ、偏極移行に関する情報が含まれていると推測される。理論計算では、光ポンピングされた気体源子が運ぶスピン流の大きさを評価した。今年度の実験条件である磁場0.56Tでは、スピン状態の混合によって複雑な光学遷移を引き起こし、D2線(波長852m)は変化に富む電子スピン流と核スピン流を誘起することがわかった。
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