研究概要 |
分子性ガラスやスピングラスなどの乱れた系の現象を記述するためには平衡統計力学は不十分であり,揺動散逸定理(FDT)はガラスなどの系では一般に破れている.しかしながら,ガラスなどの乱れた系でも,温度の定義を拡張することにより,見かけ上FDTが成立することが示唆され,非平衡系の大きなテーマとして注目されている.本研究では過冷却液体状態にある高分子に対して外場の印加により,非平衡状態を実現し,そこでの揺動散逸定理の破れを振動回路のノイズのパワースペクトルを測定することにより,実験的に検証することを最終目的にする.本年度はこの目的遂行のための準備段階として,非平衡状態であるガラス状態とガラス転移近傍のダイナミクスについて調べた. 1)本実験を可能とするために,非平衡状態であるガラス状態での誘電測定に伴うノイズの取り扱いに焦点をあてた.ノイズデータをから有意な傾向を引き出す手法をR.R.Nigmatullin氏(カザン州立大学)との共同研究により習得した。その成果についてはJ.Non-Cryst.Solidsに投稿中である。 2)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のガラス状態でのエイジング過程で観測されるメモリー効果・若返り効果の詳細を調べるために、ツイン温度シフト過程での誘電率の緩和ダイナミクスを測定した。その結果、PMMAガラス状態でのガラスダイナミクスのクロスオーバーが観測された。このことは高分子ガラスにおける温度カオス存在の可能性を示唆する。 3)2層膜内の色素でラベルしたポリスチレン薄膜層からの誘電緩和シグナルを選択的に取り出すことにより、表面でのガラス転移温度が低下していることを電気容量の温度依存性の測定により明らかにした。
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